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企業法務のリソース確保の理想と現実 #legalAC

by hrgr_Kta

 おはようございます、 @hrgr_Kta です。

 今回は縦書きではなく横書きにしました。たまにはね。

 2020年の法務系アドベントカレンダーにエントリーしましたので、今回は自分が今年度に取り組んだことの中で、道半ばではありますがちょっと腰を据えて考えた「企業法務のリソース確保」について書いてみようと思います。

1.はじめに〜今の法務部について

 以前書いたとおり私のいる会社の法務部はいわゆる法務業務だけでなく内部統制や内部監査など幅広すぎるくらいにいろいろなアイテムを抱えています。そして私は2019年から今の会社の法務部門の責任者になりました。

 メンバーは私の他に2名おり、1名は法学の素地がまったくないため内部統制や内部監査をメインで担当してもらい、もう1名は昨年からの必死の採用活動の末にめでたく今年の頭から入社してくれた法務専任の若手という構成です。

2.リソース不足という課題について

 会社はおかげさまで順調に右肩上がりを続けており、事業が大きくなるとともに法務部が抱えるどのアイテムも解決すべき問題が積み重なり始めています。特に法務業務はおかげさまで事業拡大のための前向きな案件が増えており、嬉しい悲鳴を上げています。仕事があるのはありがたいことです。

 特に昨年は法務専任が私だけという状況でかなり逼迫してしまい、今年は1名入ったからよくなるかと思いきや、会社の各事業が活発化したことによって忙しさは変わらないどころかますます多忙を極める状況になっております。求められるってありがたいことです。

 おまけに今年はコロナウィルス感染症の影響により会社がフルリモートワークへシフトしたことや、特に3月から5月にかけては事業の需要が増えたこともあって、本当にありがたいことなんですが、様々な変化を乗り越えるために若手スタッフと一緒にやっぱり悲鳴を上げる羽目になってしまいました。

 法務部が抱える業務に対して、リソースが足りていないことは明白です。案件自体を抱えることは可能ですが、こうなると段々打ち返す内容の質を高めるための時間も確保しづらくなりますし、確保したらしたで今度は数が多いために案件を打ち返すスピードが遅くなってしまいます。

3.リソース不足を解消するには

 リソース不足といっても、そもそも「リソース」というものはいろいろあるわけですが、幸いにしてお金はありました。さらに上司からは「業務の取捨選択は任せるし、弁護士にどんどん振ってもいいよ」と言われていたので、大変ながらも前向きに取り組むことができました。

 じゃあリソース不足しないのでは?というように思われそうですが、すでに業務は取捨選択されてますし(!)、そして業務は大小幅広くあるためすべてを外部の弁護士に振るにはディレクションコストが増大するばかりで自分の首を絞めてしまいます。

 結局何がしたいのかといえば「自分たちの手元を少しでも空けることで、ちゃんとした質の回答をなるべく早く返せるようにしたい」というごく当たり前のことなのですが、これを実現するためにはどうすればいいのかを考えました。

(1)人を採用する

 自分たちの手元を少しでも空ける、の究極的な手段が「『自分たち』の数そのものを増やしてしまおう」というものです。幸いにして上司からは「人ももっと雇っていいよ」と言われていました。が、こればかりはご縁なので地道にやっていく他ありません。

(2)業務フローを自動化・効率化する

 自分たちの手元を少しでも空けたいのであれば案件の流入量を減らせばよく、流入量を減らすとは案件の受領を断るのではなくて、自動的に解決してしまえば実現するのではないかと考えました。自分たちの業務フローにおいて自動化できるものがないか、または効率化できないかを模索する必要があります。

 ちょうどコロナ禍においてフルリモートワークにシフトしたことにより、社員すべてが物理的に分断され、オンラインでのみつながるという形になりました。出社が制限されているわけではありませんが、基本的な職場はみんな自宅です。これまでと同じ働き方をしていると不便なことが増えるので、仕組みを変えていく必要がありました。

 そして機を同じくしてリーガルテックが盛り上がりを見せてます。本当は昨年から盛り上がっていますが、残念ながら昨年まではとても自分に余裕がありませんでした。しかし、今年入社したての若手スタッフがテクノロジー好きということもあって、じゃあいろいろと見てみようということになりました。

(3)ナレッジをマネジメントして打ち返すスピードを上げる

 勢い余ってルーっぽいことを書きましたが、アホっぽさがいいのでそのままにします。

 (2)に近いというか一部を引っ張り出した感がありますが、これまで何度か試みては失敗している案件管理に今一度着手できないかということを再考しました。

 どのような案件が舞い込んできたか、その案件について何を調べたか、どのような回答をしたか。これらが管理されていないと、過去にせっかく調べたことを何度も同じように調べてしまったりしてとても非効率です。せっかく得たノウハウが蓄積されていないということは、それだけで悪です。しかもこれが自分だけで回しているうちはいいものの、複数人になればあっちで調べたことをこっちでも調べてる、みたいなことになりかねません。

 ノウハウをナレッジ化できないか、いわゆるナレッジマネジメントができれば手元の業務の回転数を上げられそうです。これも模索することにしました。

4.リソース不足の解消策を掘り下げる

 業務フローを自動化・効率化したりナレッジマネジメントしたりする上で何らかのツールを導入し、リソース不足を解消できないかというところで、リーガルテックを導入すること、そしてリーガルテック以外のツールを導入することを模索してみました。

(1)リーガルテックの導入

 とりあえずいくつかのメジャーどころのリーガルテックについてお話を伺ってみたところ、どのサービスも企業法務にありがちな問題や課題に対処しようと考えてくれていて、いろいろと便利になったなあと思う反面、いくつか導入するための壁がありました。

①セキュリティ面の要求事項をクリアしづらい

 自社の事情ですが、クラウドサービスを使うのにセキュリティ面でのハードルが年々高くなり、SOC2レポートはありますか?とかSSOやMFAはありますか?というところをクリアしないとなかなか使えないのが現状です。一見するとクリアしてなさそうで細かく聞いてみないと怪しいなということや、クリアしようとするとプランが上がって費用がかかる、というケースがほとんどでした。

 でも海外のサービスってもともとセキュリティに関する意識が高いのか、そのあたりは織り込み済みで提供しており、ベースラインとなる費用が安いという印象が残りました。日本のリーガルテックはセキュリティ面の担保が付加価値ではなく当たり前になってくれると、もっと普及するのではないかという感想を持っています。

②既存の動線から外れることが難しい

 Office365でTeamsを利用しており、他にもワークフロー含めて既に使っているグループウェアがあったりするので、法務だけ個別に窓口を用意して「こちらへどうぞ」というのが言いづらかったです。「ちょっといいですか?」という形で相談が気軽にチャットで来るというのは心理的ハードルが低いでしょうから、案件管理や契約管理のために別窓口を設けたりすると、なんでわざわざ法務だけそんな御大層な入り口にしてるのか、というように見られると思ってしまいました。

 そんな既存の動線なんて壊してしまえばいいじゃないか、というのもありますが、それなら他の管理部門やデザインなどの横断的な部署の入り口も含めて社内ポータルを設けてみんなでえいやという形で動かないと、法務だけコミュニケーションコストが高いということだけが残ってしまいそうです。

 きっとベンチャー企業がこれから社内の動線を作っていくにあたってささっと導入するにはリーガルテックはとても便利なのだろうなと、羨ましく思ったりします。そういう点では、社内システムのあり方について常日頃考えて積極的に変化させることができる存在がいると、この手のツールの導入はすごくしやすいんでしょうね。

③高い

 たとえお金を使っていいと言われても、費用対効果が見込まれなければ説明がつかなくて導入しづらいです。①でセキュリティ面をクリアするのにプランが上がって想定以上に費用がかかる、②で数名程度だとそこまで高くないものも会社全体を巻き込んだりすると費用がかかる、という形であれよあれよという間に予算をオーバーしてしまいます。

 特に複数リーガルテックを導入するとなると、普通に契約社員や正社員を1名採用することと変わらないくらいの金額になってしまいます。こう書いていて、リーガルテックは人を置き換えていくものでもあるんだろうなと改めて考えたりしてしまったので、何なら思い切って導入してもいいのかもしれませんね。とはいえ、専任で人をつけるにはちょっと高すぎるように感じます。

 以上から、部外を巻き込むタイプのリーガルテックの導入は見送ることにしました。

(2)ナレッジマネジメントツールの導入

 別にリーガルテックと呼ばれる分野でなくても、ナレッジマネジメントに関するツールは世にたくさん出ています。エンジニアがよく使っていたりするものの中にはとても優秀なツールもあったりして、別にリーガルテックにこだわらなくても、これは案外よりどりみどりなんじゃないの?ということでいろいろ検討してみました。

①SharePoint

 とりあえず調べた情報を蓄積して引っ張り出すことを容易にする、お金がかからずセキュリティの要求事項もクリアする、という点で考えると、Office365の中にあるSharePointが実は一番いいのではないか、というところにまずたどり着きました。

 ですが、そもそもこいつは作り込みが必要なサービスであり、とりあえず始めるにはとってもハードルが高く、外部に作り込みを委託するにしても費用がかかる上に運用コストも馬鹿にならないので、あっさり断念してしまいました。

 ただ社内でこの作り込みと運用保守がしっかりできる人がいれば、費用・セキュリティともにベストなんだろうなと今でも思っています。作り込みがめんどくさいんですけど。

②FAQとチャットボット

 そもそも入ってくる仕事を減らすという点で、よくある質問というのはFAQやチャットボットで自動的に解決できないか、ということも考えました。典型的な質問が自分たちの手元に届かないうちに解決してくれれば、自分たちは非典型的な質問への回答に注力できます。

 FAQは会社のエンジニアがいくつかある中でQastというサービスを紹介してくれました。また、チャットボットについては、我々の悩みをたまたま聞いた元エンジニアの先輩社員の方が大変ありがたいことにプログラムを組んでくれて、Teams上で動くチャットボットのプロトタイプを作ってくれました。

 既存の動線から外れるのが難しい、という話を上でしましたが、FAQもチャットボットもたまたま会社全体で仕組みを変えられないかという点でそれぞれが動いており、会社全体でよっこいしょとそちらに移ってしまえば法務だけが悪目立ちすることもなく、会社の仕組みをいい方向に変えられるかもしれません。

 ただ、FAQもチャットボットも難点があり、まずは典型的な質問と回答という組み合わせを書き出していかないと動かしようがないというところです。まだ情報の蓄積を行ってもいないのにこちらを検討するのは順番が違うかもしれないね、ということで今少し止まっています。

③情報の蓄積や共有のためのクラウドサービス

 情報を蓄積しようと言ってExcelを使うのはさすがに避けたく、ただ蓄積するだけでなく検索の容易性も確保したいということで外部サービスを探してみました。

 esaDocbaseKibelaあたりをトライアルでいじってみた結果、どれもシンプルな作りでよかったのですが(特にesaはI/Fがかわいい)、費用・セキュリティ・操作感からDocbaseがよさそうだというところで、社内手続きをクリアしてちょうどこれから使おうとしています。

 情報入力のルールも考えなければいけませんが、うまくすれば②のFAQやチャットボットにも利用可能になりますし、他の人が何を調べていたか、というのもパッと取り出せそうだなという期待があります。

5.リソース不足は解消できたのか

 リソース不足に対してあれこれ考えて実行して、リソース確保できたよ!という話ができればいいのですが、なかなかそううまくは行かないのが現実でした。というのもそもそもここに至るまでに結構時間がかかり、実現に至っておらず、今でもリソースが足りてなくて、仕事はおもしろいことや新しいことなんかもあったりして楽しいのは間違いないのですが、やっぱりちょっと大変です。

 ただ実際ちゃんと課題に向き合ってやってみてわかったのは、

  1. 部外を巻き込むリーガルテックは今の段階だとまだちょっと手を出しづらい

  2. コロナ禍で必要になったリーガルテックは導入できた

  3. リーガルテック以外にも案外いいツールがある

  4. 一緒に考えてくれる仲間がいるのはとても心強い

でした。

 リーガルテック自体は全く否定するものではありませんし、使い方で本当に便利になるのは間違いないです。たまたま今の自分達にフィットしなかったというだけで、この分野はアップデートが早いですから、また近々お話を伺えればいいなと思っております。

 とはいえ、コロナ禍で働き方が変わったことに伴い、一部のリーガルテックを導入することで業務の効率化は進みました。電子署名にクラウドサインを全社的に導入し、部内では法律書籍をシェアできなくなってしまったため、Business Lawyers LibraryとLegal Libraryをそれぞれ試験的に導入しています。また、これを機に老舗のWestlaw Japanも導入して、リーガルリサーチを強化することもしました。

 さらに、リーガルテック以外にも目を向けられたのはとてもいい経験になりました。別に法務でなくともナレッジマネジメントについて課題を抱えている方が多いからこそ、様々なツールがあるわけですから。横にいる部署の人たちとも話をして、せーので導入できたりするととても便利そうです。

 そして、今年入ってくれた若手さんがとても優秀で、その人のおかげで自分が今まで手を出せなかった、知らなかった領域にどんどん足を踏み入れて様々な選択肢を探すことができたのが大変心強かったです。仲間がいるって素晴らしい、としみじみ思います。

6.おわりに

 今回の記事は準備期間が短くてなかなかに苦行でしたが、頭の中が整理できたのはとても良かったです。実は最初に「企業法務のナレッジマネジメント」という標題にして書き始めたものの、そもそもなんでナレッジマネジメントがしたかったんだっけ?というのを考えていたら標題が変わっていました。

 考えながら進めた結果の「やったこと」をなんらかの機会をきっかけに整理することはとても大切で、つい先日読んでとても共感した「情報のインプットに大事なのは「頭の中に木を植える」こと」という記事にも書いてあるように、体系化された知識はきっと自分の力になってくれるはずです。なのでブログを書くことは大事ですし、外に出すことを躊躇しなくても大丈夫です。

 最近ちょっと外に出てなかなかに恥ずかしい思いをしたことがあるのですが、それによって自分に足りないことが初めてわかったりします。そうなると少なくともそれまでの自分よりは成長した自分になっているんですよね。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」っていい言葉です。

 あと、このネタを書こうと思っていたのがアドベントカレンダーにエントリーしてすぐのことだったのですが、その後すぐに「Legal Innovation Conference」というイベントでビズリーチの小田さんが全く同じネタで私以上にすばらしいプレゼンをされているのを見てひっくり返りました(今改めて読んでみたら私がパクってるようにしか見えないスライドもあります…)。ただ今年度の頭に自分が考えたこともやってきたことも事実ですし、ここでネタを変える必要はないかなと思ってそのまま書き切りました。

 本当はもう一つ書きたいネタがあって、発信者情報開示のあり方研究会についてというものがあったのですが、それこそ知識を整理する余裕がまったくなかったのと、まだ現在進行系でタイミングが少し早そうなのもあり、これはもう少しあとで書くネタとして温めておくことにします。本当に書くのか自分。

 というわけで、2020年の法務系アドベントカレンダーはまだまだ続きますよー!

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